はじめに
「は」と「が」は、日本語を勉強する人が一番長く悩む助詞です。
やさしい版では、「は」をワイドカメラ、「が」をズームカメラに例えました。あのイメージは今も正しいです。でも、実際の会話ではもっと細かいルールが動いています。
たとえば、こんな経験はありませんか。
- ルールどおりに「が」を使ったのに、先生に「ここは『は』ですね」と直された
- 「私は行きません」と「私が行きません」の違いが説明できない
- 長い文を作ると、とつぜん「が」しか使えなくなる
この記事では、カメラの話から一歩進みます。「は」と「が」を、文の設計図という角度から見ていきましょう。
キーワードは3つです。テーマ、情報の新しさ、文の大きさ。この3つがわかると、迷いが半分になります。
📖 この記事の内容
- 第1部:「は」は文のテーマを決める — 主題(=その文が何について話すかを示す言葉)と主格(=動作をする人やものを示す言葉)
- 第2部:「は」と「が」が持つ「気持ち」 — 対比・総記・否定
- 第3部:文の中の文では「が」 — 従属節(=大きい文の中に入っている小さい文)のルール
- まとめ
- 関連動画
- もっと学びたい方へ
第1部:「は」は文のテーマを決める
「は」と「が」は、同じ種類の助詞ではありません
まず、大きな事実を1つお話しします。
「は」と「が」は、実はライバルではありません。仕事の種類がまったく違うのです。
- 「が」= 主格の助詞(=「だれが」「なにが」を示す)
- 「は」= 主題の助詞(=「この文は何について話すか」を示す)
「が」は、動作をする人やものに付きます。文法の中の役わりを示す助詞です。
でも「は」は違います。「は」は、文の一番上にテーマを立てる助詞です。
だから「は」は、主語以外の言葉にも付けられます。
- 「この本は もう読みました。」(本は「読む」の目的語)
- 「東京へは 行ったことがありません。」(場所に付いている)
- 「日曜日は 休みます。」(時間に付いている)
これらの文では、「は」が付いた言葉は主語ではありません。「これから、この話をしますよ」という看板の役わりをしています。
> 💡 覚え方:「が」は文の中の役わりを決める。「は」は文の外から「テーマはこれです」と宣言する。
「は」は文の最後までとどく
もう1つ、大切な性質があります。
「が」の力は、すぐ近くの動詞までしかとどきません。でも「は」の力は、文の最後までとどきます。
- 「私は 昨日、友だちと映画を見て、そのあとご飯を食べました。」
「私は」は最初にありますが、「見た」のも「食べた」のも私です。テーマを一度決めたら、その文が終わるまで有効なのです。
練習してみましょう ①
次の文の「は」は、主語ですか。主語ではありませんか。
- 「魚は 食べません。」
- 「兄は 医者です。」
<details>
<summary>💡 答えを見る</summary>
- 主語ではありません。「魚を食べません」の「魚」がテーマになっています。
- 主語です。「兄が医者だ」の「兄」がテーマになっています。
同じ「は」でも、下にかくれている助詞(を/が)が違います。
</details>
第2部:「は」と「が」が持つ「気持ち」
第1部で、「は」はテーマを立てる助詞だとわかりました。ここからは、そのテーマの立て方が生む「気持ち」を見ていきます。
① 新しい情報は「が」、知っている情報は「は」
会話には流れがあります。相手がまだ知らない話と、もう知っている話です。
日本の昔話は、この流れを完ぺきに見せてくれます。
> むかしむかし、おじいさんが いました。
> おじいさんは 山へ行きました。
1つ目の文の「おじいさん」は、聞く人が初めて聞く名前です。新しい情報なので「が」を使います。
2つ目では、もう「おじいさん」を知っています。だからテーマにできて、「は」に変わります。
このルールは、日常会話でもまったく同じです。
> A:「昨日、駅で変な人が いました。」
> B:「え、その人は 何をしていたんですか。」
Bさんは、Aさんが出した新しい情報を受け取りました。だから、それをテーマにして「は」で聞き返します。
> ⚠️ 注意:自己紹介で「私が Keigo です」と言うと、少し変です。「私」は、目の前にいるのでもう知っている情報だからです。ふつうは「私は Keigo です」と言います。
② 対比の「は」
「は」をテーマにするということは、ほかのものと分けているということです。だから「は」は、しぜんに比べる気持ちを持ちます。
- 「コーヒーは 飲みますが、お茶は 飲みません。」
ここでは、コーヒーとお茶を2つのテーマに分けて、別々(べつべつ)の答えを出しています。
おもしろいのは、「は」が1つだけでも比べる気持ちが出ることです。
- 「今日は 早く帰ります。」
この文は、「いつもは早く帰らないけれど」という意味を静かに伝えます。相手はそれを感じ取ります。
だから、この「は」は使い方に気をつけたほうがいいときもあります。
- 「あなたの日本語は 上手ですね。」
ほめているのに、「ほかは上手じゃないけど」と聞こえる可能性があるのです。
③ 総記の「が」(=「ほかでもなく、これだ」と言う言い方)
次は「が」の特別な使い方です。
> A:「だれが 行きますか。」
> B:「私が 行きます。」
Bさんの答えは、ただ「私は行く」と言っているのではありません。「ほかの人ではなく、私です」という意味です。
これを 総記 と呼びます。答えを1つに決める「が」です。
疑問詞を使った質問には、必ずこの形が現れます。
| 質問 | 答え |
| だれ**が** 来ましたか。 | 田中さん**が** 来ました。 |
| どれ**が** あなたのかばんですか。 | これ**が** 私のかばんです。 |
ここで「田中さんは来ました」と答えると、質問の答えになりません。相手は「だれか」を知りたいのに、テーマの説明を返してしまうからです。
> 💡 ルール:疑問詞のうしろには「は」を付けられません。「だれは」「なには」という日本語はありません。
④ 否定と「は」
「は」の対比の力は、否定文でとても強くはたらきます。
次の2つを比べてください。
- 「私は 行きません。」 … ふつうの言い方。「私」がテーマで、行かないという説明。
- 「私が 行きません。」 … 少し特別。「行かない人は、ほかでもなく私です」という意味。
つまり②の文は、「みんな行くけれど、私だけ行かない」という場面で使います。ふつうの断り方ではありません。
このため、日本語では否定文に「は」がよく現れます。
- 「お酒は 飲みません。」
- 「まだ ご飯は 食べていません。」
- 「そんなことは 言っていません。」
「を」や「が」が「は」に変わって、「これについては違います」と伝えているのです。
練習してみましょう ②
( )に「は」か「が」を入れてください。
- 「どの人( )田中さんですか。」
- 「肉( )好きですが、魚( )あまり好きじゃありません。」
- 「へやに だれか( )います。」
<details>
<summary>💡 答えを見る</summary>
- 「どの人が 田中さんですか。」— 疑問詞には「が」(総記)
- 「肉は 好きですが、魚は あまり好きじゃありません。」— 対比の「は」
- 「へやに だれかが います。」— 新しい情報の発見
</details>
第3部:文の中の文では「が」
ここが、多くの学習者が一番おどろくところです。そして、一番役に立つルールでもあります。
ルール:小さい文の中では「は」を使わない
日本語には、大きい文の中に小さい文が入る形があります。これを 従属節 と呼びます。
その小さい文の中では、主語に 「が」 を使います。「は」は使えません。
- ○ 「私が 作った料理を 食べてください。」
- × 「私は 作った料理を 食べてください。」
なぜでしょうか。第1部を思い出してください。「は」は文全体のテーマを決める助詞でした。テーマは、大きい文に1つで十分なのです。小さい文の中には、テーマを立てる場所がありません。
どんなときに「小さい文」になるか
覚えるべき形は4つだけです。
(1)名詞を説明する形
- 「兄が 撮った写真です。」
- 「私が 住んでいる町は静かです。」
(2)「〜とき」
- 「日本へ来たとき、雨が 降っていました。」
- 「友だちが 来るとき、電話をします。」
(3)「〜たら」「〜ば」「〜と」
- 「田中さんが 来たら、教えてください。」
- 「春が 来れば、桜がさきます。」
(4)「〜から」「〜ので」「〜ても」
- 「電車が 遅れたので、遅刻しました。」
- 「雨が 降っても、行きます。」
大きい文には「は」がもどってくる
小さい文の外、つまり大きい文のほうには「は」が使えます。
- 「私は、母が 作った料理が 一番好きです。」
この1文に「は」が1つ、「が」が2つあります。それぞれの仕事は違います。
| 部分 | 助詞 | 仕事 |
| 私 | は | 文全体のテーマ |
| 母 | が | 小さい文(母が作った)の主語 |
| 料理 | が | 「好きです」の対象 |
こう分けて見ると、長い文も こわくありません。
練習してみましょう ③
( )に「は」か「が」を入れてください。
- 「これは 姉( )買ってくれたかばんです。」
- 「時間( )ありませんから、タクシーで行きましょう。」
- 「私( )、日本語( )むずかしいと思います。」
<details>
<summary>💡 答えを見る</summary>
- 「姉が 買ってくれたかばん」— 名詞を説明する小さい文
- 「時間が ありませんから」— 「〜から」の中
- 「私は、日本語が むずかしいと思います。」— 大きい文のテーマは「は」、「〜と思います」の中は「が」
</details>
よくある間違いと、その直し方
| ❌ よくある間違い | ✅ 正しい形 | 理由 |
| だれ**は** 来ましたか。 | だれ**が** 来ましたか。 | 疑問詞に「は」は付かない |
| 私**が** 学生です。(自己紹介で) | 私**は** 学生です。 | 「私」は知っている情報。総記になってしまう |
| 私**は** 好きな食べ物は寿司です。 | 私**が** 好きな食べ物は寿司です。 | 名詞を説明する小さい文の中は「が」 |
| 雨**は** 降っています。 | 雨**が** 降っています。 | 今見つけた新しいこと。対比の意味が出てしまう |
| コーヒー**が** 飲みますが、お茶**が** 飲みません。 | コーヒー**は**〜、お茶**は**〜 | 2つを比べているので対比の「は」 |
| 私**は** 来たら、始めましょう。 | 私**が** 来たら、始めましょう。 | 「〜たら」の中は「が」 |
直し方のコツ:迷ったら、次の順番で確認してください。
- その言葉は、小さい文の中にいるか → はい なら「が」
- 疑問詞か、疑問詞への答えか → はい なら「が」
- 相手がまだ知らない新しい情報か → はい なら「が」
- 上のどれでもない → たいてい「は」
まとめ
| 場面 | 助詞 | 例文 | ポイント |
| 文のテーマを立てる | は | 私**は** Keigo です | 主題。文の最後まで力がとどく |
| 動作をする人を示す | が | 犬**が** 走っています | 主格。文法の中の役わり |
| 初めて出す情報 | が | むかし、おじいさん**が** いました | 新情報 |
| 2回目からの情報 | は | おじいさん**は** 山へ行きました | 旧情報 |
| 2つを比べる | は | コーヒー**は** 飲みますが、お茶**は** 飲みません | 対比 |
| 答えを1つに決める | が | 私**が** 行きます | 総記。ほかでもなく私 |
| 打ち消す | は | お酒**は** 飲みません | 否定と相性がいい |
| 疑問詞といっしょ | が | だれ**が** 来ましたか | 「だれは」は不可 |
| 小さい文の中 | が | 私**が** 作った料理 | 従属節では「は」を使わない |
「は」と「が」は、覚えるルールが多い助詞です。でも、根っこは1つだけです。
「は」は文の外からテーマを決める。「が」は文の中の役わりを決める。
この1行を持っていれば、細かいルールはすべてそこにつながります。あとは、たくさん聞いて、たくさん話すだけです。
▶️ 関連動画
「は」と「が」のイメージは、3本の動画でも勉強できます。この記事といっしょに見てください。
(1/3) 👉 カメラでわかる:ワイドとズーム — 「は」と「が」の基本
(2/3) 👉 は=くらべる — 対比の使い方
(3/3) 👉 が=ズームの気持ち — 発見と「好き」の表現
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🎓 もっと学びたい方へ
YouTubeでは「は」と「が」のルールを教えていますが、Preplyではあなたが実際に作った文を見て、その場で直します。
「は」と「が」は、説明を読むだけでは身につきません。自分で文を作って、間違えて、直してもらう。この回数が力になります。
あなたが話したいテーマで会話練習をしながら、助詞の使い方を一つずつ整えていきましょう。
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